東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)97号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
1 第一引用例の記載内容に関する審決の理由の要点5(一)、本件発明と同引用例記載の考案の一致点に関する同6(一)、本件発明の技術思想に関する請求の原因四1(一)は当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第三号証(本件発明の公告公報)、第四号証(第一引用例)によれば、本件発明と第一引用例記載の考案を対比すると、ロールスクリーン、シヤツターのごときスクリーンの一端が固定されてスクリーンを巻取り可能にした巻取筒の一端側には、スクリーン引出し時にねじり弾撥力を付与蓄積し、引出されたスクリーンを停止させた位置に関連して少なくとも若干逆転復帰された状態での巻取筒の逆転を阻止すべく、巻取筒とこれを支持する固定軸との間で係合停止を図つてスクリーンを保持するクラツチ部を備え、このクラツチ部における係合解除に伴うねじり弾撥力の解放復原によりスクリーンを巻取る主ドライブ機構を装置し、巻取筒の他端側にはスクリーンの引出し時にねじり弾撥力が付与され、前記主ドライブ機構におけるスクリーンの巻取り時にねじり弾撥力が解放されてスクリーンを巻取るようにしたスクリーンの係合保持手段がない補助ドライブ機構を内装し、補助ドライブ機構が有する巻取トルクとスクリーンの重量負荷モーメントとの差を主ドライブ機構における巻取トルクとして設定した点で両者は一致しているものと認めることができる。
2 原告は、第一引用例記載の考案は補助ドライブ機構との協働による主ドライブ機構の負荷軽減という請求の原因四1(一)に述べられた本件発明のような技術思想を有しない旨主張する。しかし、前記争いのない第一引用例の記載内容及び甲第四号証(第一引用例)によれば、同引用例記載の考案は巻取筒の両端に主ドライブ機構及び補助ドライブ機構として板バネを設置し、スクリーン等の引下げの際、右各板バネに蓄積された弾撥力(巻取トルク)により、スクリーン等を巻取るものであること、したがつて、同考案も主ドライブ機構のみを有する巻取装置とは異なり、本件発明同様補助ドライブ機構を設けることにより主ドライブ機構の負荷軽減の効果を奏するものであることが認められる。そうであれば、第一引用例記載の考案はかかる効果をもたらすことを当然の前提として、即ち原告主張のような本件発明の技術思想を当然の前提としてなされたものということができるのである。
3 次に、原告は本件考案において主ドライブ機構と補助ドライブ機構について対称性の構成を必要としないのに対し、第一引用例記載の考案では両ドライブ機構について対称性の構成に限定されるとして、この点についての相違点の看過を主張する。しかし、本件発明において両ドライブ機構の構成が必ずしも非対称性のものに限定されず、対称性のものを排除しないことについては当事者間に争いがなく(このことは前記争いのない本件発明の要旨からも明らかである。)、対称性の構成によるも補助ドライブ機構との協働による主ドライブ機構の負荷軽減という原告主張の本件発明の技術思想にそう効果が実現されることも明らかである。他方、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には両ドライブ機構が対称性の構成に限定される旨の記載はないことが認められる。原告主張の左右の板バネ、軸等が同一の符号で説明されていることは、それだけでは同引用例記載の考案の両ドライブ機構が対称性の構成に限定されると解する根拠とはならず、他に右のように解すべき理由はない。そうであれば、同引用例記載の考案は両ドライブ機構について非対称性の構成を排除しないものと認めることができるから、結局本件発明と同考案において両ドライブ機構の構成に差異はないものというべきである。
4 そうであれば、審決に原告主張のような相違点の看過はなく、取消事由(1)は理由がない。
三 取消事由(2)について
1 本件発明と第一引用例記載の考案との相違点に関する審決の理由の要点6(二)は当事者間に争いがない。
2 相違点(1)、(3)について
前記1の争いのない事実と前掲甲第三、第四号証によれば、本件発明中主ドライブ機構がスプリングドライブ式のものと第一引用例記載の考案を対比すると、両者は前記二1に認定した構成の点において一致するが、前者の主ドライブ機構及び補助ドライブ機構がコイルスプリングにより形成されているのに対し、後者の両ドライブ機構が板バネにより形成されている点において相違するものと認めることができる。
しかし、成立に争いのない甲第五号証(実開昭五二―二一二五二号)、第八号証(実公昭五二―三一五九一号)によれば、本件特許出願前スクリーン等の巻取装置においてドライブ機構として巻取筒の端部付近にコイルスプリングを設ける技術が周知であつたことが認められるから、第一引用例記載の考案において、主ドライブ機構及び補助ドライブ機構を形成する板バネに代えてコイルスプリングを採択し、これにより右両ドライブ機構を形成し、本件発明におけるコイルスプリング方式の装置を想到することは当業者として容易になし得るものということができる。原告は、コイルスプリングが板バネに比し弾撥力等の点で格別の効果を奏する旨主張するが、右のようにスクリーン等の巻取装置のドライブ機構にコイルスプリングを用いることが本件特許出願前周知である以上、仮にコイルスプリングが板バネに比しすぐれた効果を奏するとしても、それは右周知技術によりコイルスプリングを採択したことによる当然の結果ともいうべきものであるから、原告の右主張はコイルスプリング採択の容易性を否定する根拠とはなり得ない。
3 このように本件発明の要旨中主ドライブ機構がスプリングドライブ方式であるトルク差方式巻取筒ドライブ装置に関する構成が第一引用例と前認定の周知技術により容易に想到し得るものである以上、本件発明の要旨中他の構成として択一的に記載されているモータードライブ式及びハンドドライブ式に関する原告の主張(取消事由(2)(二)、(三))について検討するまでもなく、本件発明は進歩性に欠け、本件特許は無効なものといわざるを得ない。
四 以上のとおり原告の取消事由は理由がないから、本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本件発明の要旨は左のとおりである。
「ロールスクリーン、シヤツターの如きスクリーンの一端が固定されてスクリーンを巻取可能にした巻取筒の一端がわには、
(a) 内蔵されているコイルスプリングに対しスクリーン引出し時でねじり弾撥力を付与蓄積し、引出されたスクリーンを停止させた位置に関連して少なくとも若干逆転復帰された状態での巻取筒の逆転を阻止すべく、巻取筒とこれを支持する固定軸との間で係合停止を図つてスクリーンを保持するクラツチ部を備え、このクラツチ部における係合解除に伴なうスプリングのねじり弾撥力の解放復原によりスクリーンを巻取るスプリングドライブ式であるか(以下この構成を「スプリングドライブ式」という。)、
(b) 内蔵されているモータの駆動力を適宜な減速手段を介して減速させ、これに従動回転される伝動歯車を巻取筒内周面に設けた内歯車に噛合させることで巻取筒を正逆方向で回転せしめ、モータの停止により、引出されたスクリーンをそのまま保持するモータードライブ式であるか(以下この構成を「モータードライブ式」という。)、
(c) 操作紐に対する正逆方向での手動牽引操作により連動回転される滑車の駆動力を適宜な減速手段を介して減速させ、これに従動回転される回動軸を、巻取軸に固定されている軸支体に結合させることで巻取筒を正逆方向で回転せしめ、操作紐への牽引操作停止により、引出されたスクリーンをそのままで保持するハンドドライブ式であるか(以下この構成を「ハンドドライブ式」という。)のいずれかである主ドライブ機構を装着し、一方、巻取筒の他端がわには、スクリーンの引出し時にねじり弾撥力が付与蓄積されるコイルスプリングが内蔵され、前記主ドライブ機構におけるスクリーンの巻取り時にねじり弾撥力が解放されてスクリーンを巻取るようにした、スクリーンの係合保持手段がない補助ドライブ機構を内装し、補助ドライブ機構が有する巻取トルクとスクリーンの重量負荷モーメントとの差を、主ドライブ機構における巻取トルクとして設定したことを特徴とするトルク差方式巻取筒ドライブ装置。」